企業の成長性を評価する視点とは
来年から新NISA制度が始まります。個人投資家が新制度を活用するうえで、参考となる投資の視点を教えてください。
新NISA制度の主目的は家計の安定的な資産形成にあり、非課税措置が拡大されます。このメリットを活かすためには、長期的に株価の上昇が期待できる銘柄に投資することが肝要ですが、それは利益成長が期待できる企業を選別する作業となります。問題はどのように企業の成長性を評価すればよいかという点にあります。実際、これに対する絶対的な解はありませんが、アナリストが使っている伝統的な企業評価のアプローチは参考にできると思います。
そのようなアプローチに、マイケル・ポーターの有名な「5フォース」分析があります。これは5つのフォース(脅威や力)から業界構造を分析するフレームワークです。具体的には、新規参入や代替品の脅威、買い手や売り手との力関係、および業界内競争の観点で、これらの状態が良好か否かで競争状態を把握するものです。
近時、半導体製造装置の株価が大きく上昇していますが、東京エレクトロンに代表される企業群は5フォースの点で優良な環境にあるといえますし、任天堂やオリエンタルランドなども業界他社との競争状態は安定しているといえます。
安い時期に投資する姿勢が重要
5フォース分析で良好な競争環境にあると評価される企業でも、既に株価に織り込まれていれば、高いリターンにつながらない場合も多いのではないですか。
その通りで、株価の水準は極めて重要です。株価が人気化して上昇しているときに、それに追随して購入しても、高いリターンを獲得するのが難しいことは明らかです。
そこで、個人投資家にとって有効な視点となるのが、投資タイミングを考慮したインベスターリターンというパフォーマンス指標です。例えば投資信託の場合、そのリターンは分配金を考慮した基準価額の変化率(ファンドリターン)が使われます。しかし、基準価額が上昇していても、基準価額が高い時期に買って、安い時期に売却していれば、インベスターリターンはファンドリターンを下回ります。インベスターリターンを高めるためには、 安い時期にしっかり投資するという姿勢が非常に重要になってきます。
投資信託を運用するプロの運用者は、資金の流出入を自らコントロールできないので、資金フローの影響を受けない基準価格の変化率が評価尺度となりますが、個人投資家は資金を動かすタイミングをコントロールできるので、インベスターリターンを上げることがより重要になってきます。
ここで投資タイミングについて考えておきたいと思います。株式投資のリターンは、大きく利益成長の要素と期待の変動(バリュエーション)の要素に分けられます。利益成長が見込まれる企業であれば、株価の下落は投資機会となるので、積極的に平均購入単価を引下げることが正解といえます。一方、よくナンピンは悪手と言われますが、ナンピンが問題なのは、当初の期待が外れたにもかかわらず、株価が下がったから買ってしまうという点にあるのです。
株価を動かす材料は日々変化していますが、ただ一つ確かな情報は、株価が上昇しているか下落しているかという事実です。この情報を活用しインベスターリターンの向上を図ることが、新NISAのパフォーマンス向上の鍵を握るポイントとなるということができると考えます。