· 

長期投資の原則を賢者に学ぶ

長期投資は株式重視が基本

新NISA制度のスタートが迫りましたが、個人投資家が押さえておくべき長期投資の原則にはどんなものがありますか。

新NISAを活用するうえで、必ず成果を挙げられる確実な方法はなく、自分自身の判断で市場と対峙してゆく必要があります。とはいえ、市場環境の変化によりパフォーマンスが大きく変動することも多く、そのような局面を乗り越えて長期的な成果を確保するためには、投資の基本となる原則を理解しておくことが必要といえます。

これに関して、私自身が参考にしている長期投資のテキスト2冊から、要点をご紹介したいと思います。1冊は大学の基金運用を通して投資戦略を革新したデビッド・スウェンセンの「イェール大学流投資戦略」であり、もう1冊は米国の大学で投資を学ぶ際の代表的なテキストとされるジェレミー・シーゲル教授の「株式投資」です。 

両者に共通する大原則が、名目リターンではなく実質リターンで考えるという点です。つまり、投資のリターンはインフレ率控除後の購買力で把握されるべきという基本原則です。この原則はつい忘れられることも多いのですが、債券など金利商品の実質リターンが長期的には低位に止まるという特質は重要です。この点、株式は企業業績にインフレの効果が反映されるので債券より長期投資には適しているのです。

実質リターンの視点から、スウェンセンのポートフォリオに債券は殆ど入ってきませんし、シーゲルのデータによれば、債券の投資妙味が高まるのは低インフレの時期に偏っているので、債券の割合の高い投資信託は新NISAの長期投資の対象としては不向きといえます。

さらに、両者が指摘する重要なポイントに運用コストがあります。今やこの重要性はかなり認識されていますが、投資対象商品に高コストのものが入らないよう意識してチェックする必要があります。

個人投資家に合った分散投資の手法

 新NISAでは株式への重点投資が基本となることは分かりましたが、分散効果はどのように達成すれば良いですか。

分散投資は長期投資の基本原則ですが、現実的に、米国株を中心とした世界の株式指数に日本の株式指数を加えるのが基本となるでしょう。スウェンセンは、外国株式は為替の変動も含めて分散効果を持つと評価しています。また、高配当銘柄群の投資成果も認めています。新興国市場には高いリスクを考慮して配分すべきとする一方、外国債券への投資は勧めていません。

分散投資の意義は、資産価格が同方向に動くリスクを回避することにありますが、この点、米国の先進的な大学基金では、絶対リターン投資やプライベート資産などを活用しています。しかし、この種の投資商品は市場性に乏しいので、個人投資家はもっと身近な分散手法を考える必要があります。その一つが投資タイミングを考慮したインベスターリターンという時間分散の指標です(この考え方については、7月号のこのコーナーでも解説しています)。

 

特に「成長枠」投資の場合、上昇相場で追随行動を取ってしまうと、インベスターリターンは向上しません。例えば、シーゲルのデータを見ると、インフレ環境下での株式投資のパフォーマンスは芳しくありません。そこで、長期的な視点から、インフレや金利上昇にピークアウト感が見えてくるタイミングで株式への投資額を増やしていけば、個人投資家にとって効果的な時間分散が実現できると考えられます。