インフレは債券投資を直撃
インフレと金融引き締めが金融市場の逆風となっている。そこで、㈱つかさ長期投資研究所の田倉氏に、インフレが金融資産に与える基本的な影響について聞いてみた。
「まず、インフレは債券投資を直撃します。国債など債券の利率は、発行時の金利水準に応じて決まるので、インフレで金利が上昇すると低利率の債券の価格は下落し、債券に投資している人は損失を被ります。これまで、長年のディスインフレで世界的に金利が低下傾向にあったため、債券投資家は、金利の低下による債券価格の上昇を享受してきました。しかし、そのような金利環境も転換期を迎えている可能性があります。それは、今回のインフレ圧力の背景に、ロシアの軍事侵攻に象徴される地政学的リスクの高まりが、世界的な物価の安定を支えてきたグローバル経済の分断圧力となっている点があるからです。分断化により国際分業の生産効率が悪化すれば、インフレの定着と持続的な金利上昇という『債券受難の時代』ともなりかねません。」
株式もインフレを耐える覚悟が必要
現在のマーケットの注目点は、米国のインフレがいつピークアウトするかにあるといわれるが、インフレと米国株の関係はどのように考えれば良いですか。
「インフレの影響を考えるとき、投資家にとって重要となるのが購買力の尺度であるインフレ率控除後の実質リターンです。米国で大学レベルの株式投資の教科書として知られるジェレミー・シーゲル教授の『株式投資』は、過去の長期データに基づいて米国株式の実質リターンの優位性を論証しています。そのデータをみると、19世紀から20世紀初頭までは、インフレ現象は殆ど観察されず、株式、債券とも実質リターンは安定しています。問題は戦後のインフレですが、1946~65年は、戦後経済への円滑な移行が進み、株式のリターンが向上する一方、インフレの動きも見え始め、債券の実質リターンはマイナスに転じています。さらに1966~88年に歴史的なインフレが進行すると、長期債の実質リターンは悪化し、株式の実質リターンもマイナスに転じます。特に70年代にインフレが深刻化すると、米国株式市場は『株式の死』と言われた低迷期を迎えます。」
インフレが株式の重荷になるとして、今後の日本株に対する見通しはどうですか。「73年の第一次オイルショック以降、FRBの利上げにより、相場の主役であった『ニフティ・フィフティ』と呼ばれたグロース株が暴落し、弱気相場に転じました。そして、本格回復には10年近くを要しました。幸い、米国の株式市場は、その後ほぼ40年にわたり、物価の安定化を背景に力強い上昇傾向を辿りました。しかし、これから先インフレと金利上昇が続けば、米国株は低迷を続け、日本株も影響を免れないでしょう。米国のインフレ懸念が払拭されるまでは、上値追いのポジションでリターンを積み上げるのは難しいと想定しておく必要があるでしょう。」