自己資本の増加が株価上昇の原動力
今回は、長期投資を実践する投資家でもある、㈱つかさ長期投資研究所の田倉氏に、長期投資の基本的な考え方を聞いてみた。
株式の長期投資とは、企業が産み出す利益の積み重ねをリターンの源泉とするものです。ここでの利益の積み重ねとは、毎年の配当と株主の持分である自己資本の成長ということができます。特に、企業が利益を生み出し続けることにより自己資本が増加するという構造が重要であり、それが長期的な株価上昇の原動力になります。また、ROE(自己資本利益率)が高い企業は、その名の通り自己資本の成長率が高くなるため、ROEは長期投資を考えるうえで大変重要な指標となってきます。
一般に株式評価理論における成長率は、この自己資本の成長率を指します。具体的には、毎年の利益から配当を支払った後の内部留保による成長です。この成長率に実際に受け取る配当利回りを加えたものが、長期投資のリターンの源泉となる訳です。このリターンは利益というファンダメンタルズに基づくので、「ファンダメンタルリターン」と呼ぶことができます。ファンダメンタルリターンは、結局のところ「保有期間に受け取る配当と売却時点での自己資本の価値の増分」を表すものといえます。
長期リターンの源泉を分解する
内部留保の成長が長期的な株価上昇につながるという話ですが、高成長企業は既に高い株価で評価されているので、例えば高ROE企業に投資しても、必ずしも高いリターンは得られないのではないですか。
企業のファンダメンタルリターンに関して、Tモデルと呼ばれる株式リターンの分解手法があります。Tモデルは、株式のリターンを三つの源泉に分解して考えますが、それは、①自己資本の成長率、②配当利回り、および③PERの変化、に分解されます。この①と②の和がファンダメンタルリターンになりますが、③は投資家の短中期的な期待の変化に起因する「バリュエーション変化」と呼ばれます。ご存じの通り、PERは将来の成長に対する投資家の期待の尺度といえますが、短期的には株価の動きを反映して変動します。重要なことは、株価もPERも期待先行で変動することです。多くの投資家が、景気循環や需給動向の分析、更にはテクニカル分析を駆使して、日々このような変動を予測しようと取り組んでいます。一方、Tモデルでは、③のPERの変化によるリターンの期待値(平均値)は長期的にゼロに近づくと考えます。結局のところ、短期的な株価の上げ下げを調整した長期的な株式のリターンはファンダメンタルリターンの水準で決まると考える訳です。
実際にこのモデルのリターン分解手法に基づき、2011年度から2016年度の期間で全産業(除く金融)ベースのリターン(年率)の分解を行うと、概算で①自己資本の成長が6・2%、②配当利回りが1・8%であり、③のPER変化(上昇)は2・3%の水準となっています。この構成比を考えてみても、長期投資の基本姿勢は「ROEと配当利回りの高い銘柄を、極力PERの低い水準で買う」というシンプルな原則に帰着するものといえます。