「市場に優しい金融政策」を振り返る
株式市場が堅調に推移する一方、日米共に金融政策の方向性に注目が集まる。そこで(株)つかさ長期投資研究所の田倉氏に金融政策と株式市場の関係を聞いてみた。
「過去の金融政策と株式市場の関係を考えると、特に米国において株式市場が長期に上昇基調を維持している背景として、緩和的な金融政策がある点に注目できます。そもそもの起点は1987年から2006年のグリーンスパンFRB議長の時代に遡りますが、その政策は、予防的に引締めて景気を損ねるリスクよりも、リフレ的な経済の恩恵を重視する立場にあり、『市場に優しい金融政策』と評されました。この政策は『大いなる安定』と呼ばれた景気の安定と株価の長期上昇をもたらしました。
その後、2008年のリーマンショックと世界的な金融危機の発生により、グリーンスパン議長のFRBは『バブルのパーティを止めなかった中央銀行』と批判を受ける結果となりました。
しかし、この10数年で米国の株式市場は見事に復活を遂げ、再度力強い上昇を見せています。このことは、『市場に優しい金融政策』が改めて株式市場の活性化につながっていることを示しています」。
株価上昇と消費拡大を促進する効果
金融政策は、世界的にインフレの動向に左右される状況ですが、今後の株式市場への影響はどのようになるでしょうか。
「確かに、現状はインフレが金融政策に与える影響に注目が集まっています。しかし、今日の成熟経済において、需要主導型のインフレが定常化する可能性は小さいと考えます。それならば中央銀行は予防的にブレーキをかける役割を果たせば済む訳ですが、本質的な問題は『21世紀の長期停滞』とよばれる先進諸国における構造的な需要不足にあります。この点で、FRBに代表される『市場に優しい金融政策』の目的は、景気や雇用の向上のための需要を刺激する点にあるといえます。そのため、今後も『パーティを盛り上げ、企業のリスクテイクを後押しし、株価上昇と消費拡大による需要成長を促進する』という基本姿勢は続くものと考えられます」。
市場に優しい金融政策はどのような経路で効果を発揮するのでしょうか。
「FRBの資料では、2023年末の米国の家計金融資産は118・8兆ドル(約1・7京円)で2000年比約3・5倍増となっています。これは、GAFAMなど、イノベーションを推進する企業家スピリッツにけん引された米国株の勢いによるものといえます。実際、株価上昇の恩恵といえる金融資産の資産効果が、富裕層の顕著な消費の拡大につながっており、上位20%の所得階層が個人消費の40%を占める形で経済を支える構造となっています。
日本においても、黒田総裁の下で日銀が異次元緩和に踏み切って以降、直近の上昇相場まで含め、株価は大きく上昇しています。特に半導体製造装置分野を中心に、将来の成長期待が株価の上昇に結び付いており、株価のバリュエーションが向上する新しい動きとなっています。しかし、今後の日本株の更なる上昇を考えると、『市場に優しい金融政策』の狙いに沿った新しい成長分野の拡大とそれを進める企業家スピリッツの高まりが必須といえます。そのためには、過去に囚われず幅広い価値観を容認し、リスクテイクを積極的に進める企業風土の醸成が鍵になるものと考えます」。